香にも屁にもならない【かやぱん】   第一話『走れメロス』

Novel of forward

 

 初春の日差しも麗らかなころ、如何お過ごしでしょうか?

 あの頃の私はというと、春の穏やかな気温によく負けておりました。

 先生の板書の音すらも心地よく、うつらうつらと舟を漕いでしまう有様です。

 勿論そんな不真面目な授業態度を、みすみす見逃すほど私の先生は甘くはありませんでした。

「で、今のところを――茅野さん」

 名前を急に呼ばれ、意識が現へと帰ってきます。

「はい」

 とりあえず名前を呼ばれたら返事をする、最低限その程度は無意識に行えます。

「茅野さん、今の部分をどう思いましたか? 答えてください」

 担任の先生は、時折こうして不真面目な態度の生徒を指名します。所謂見せしめと言う奴です。皆の前で授業を聞いていない事を報告させて、今後はこうならない様に真面目に授業を受けるように指導しているわけです。

 ここで「すみません聞いていませんでした」と答えるのは簡単です。聞くは一時の恥、己の過ちを認めて次に生かせば、其れもまた一つの学びとなるのです。しかし私も学生に成ったばかりではございません。今こそこれまでに培ってきた非常事態回避(ごまかし)手段を使う時です。幸い休息は十分に取れたので頭の回転は抜群です。

「ええっとですね……その事につきましては」

 ゆっくり深呼吸をして、言葉を発しながら考えます。

「私が思うに」

 先生が差している箇所が何処か分からないのであれば、作品全体に該当する感想を述べればいいだけの事。開いていた教科書のページを目で追って言葉を紡ぎます。

「感情で物事の優先順位を間違えるのは良くないと思います。罪の無い人を王様が処刑する事は良くない事です、私の勝手にお小遣いを勝手に減らされた時と同じく怒りがこみ上げてきます」

 流石に親相手に、ナイフ片手に挑んだりはしません。

「しかし用事があるのに、感情的になって別の事をしだしたら色んな人に迷惑が掛かります。お使いで買い出しに来ているのに遊びに誘われてホイホイ行ってしまっては怒られます」

 まして、用事があるからと別の友達をさらに巻き込んだら迷惑です。

「どう考えてもメロスは激怒したのはいいとして、まずは妹の結婚式の買い出しを済ませて、その後王様の暗殺計画をじっくり練るべきです」

 お使いを終わらせた後で、遊びに行けばいいのです。そっちの方が、あと腐れなく遊びに専念できます。

「まずは同志を募りましょう、パトロンが付けば活動資金が手に入ります。場内に同士を送り込むか兵士を買収出来れば、暗殺の成功率は上がります」

 衛兵か料理人が狙い目です。大臣などの重役が味方に付けば、正々堂々と王へ直訴も出来るかもしれません。

「あとは王の食事に毒を」「茅野さん、別に王様の暗殺方法は聞いていません! 貴方の意見はわかりました」

 慌てた先生にさえぎられて、私は落ち着きを取り戻します。

「私の意見は以上です」

「なるほど……貴重な意見をありがとうございます茅野さん」

 何故か疲れた様子で先生は着席を促します。そして一言。

「あと今読んでいるのは『オズの魔法使い』だったので、ちゃんと授業は聞いておくように」

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